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東京地方裁判所 平成4年(行ウ)185号 判決 1993年2月26日

東京都杉並区荻窪三丁目七番二三-三〇二号

原告

日下正一

(送達場所)東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被告

右代表者法務大臣

後藤田正晴

右指定代理人

藤村泰雄

時田敏彦

村瀬次郎

斉藤和

主文

一  原告の主位的請求をいずれも棄却する。

二  原告の予備的請求に係る訴えをいずれも却下する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求の趣旨

一  主位的請求

被告は、原告に対し、金五万二四〇〇円及び内金七七〇〇円に対しては昭和四九年五月一日から、内金四万四七〇〇円に対しては昭和五〇年七月三一日から、いずれも支払済みまで年一割六分五厘の割合による金員を支払え。

二  予備的請求

荻窪税務署長が、原告に対し、昭和四九年五月一〇日付けでした、昭和四八年分の確定申告に基づく同年分の源泉所得税の還付金二二万二〇〇〇円のうち、金七七〇〇円を昭和四八年分の所得税に充当した処分及び昭和五一年五月三〇日付けでした、昭和四九年分の確定申告に基づく同年分の源泉所得税の還付金一六万三二〇〇円のうち、金二万九二〇〇円を昭和四八年分の所得税に、金一四〇〇円を同年分の過少申告加算税に、金一万四一〇〇円を昭和四九年分の所得税にそれぞれ充当した処分が無効であることを確認する。

第二事案の概要

一  当事者間に争いがない事実

1  荻窪税務署長は、原告が昭和四八年分の所得税についてした確定申告に対し、昭和四九年四月三〇日付けで、総所得金額を七万八〇〇〇円、納付すべき税額を七七〇〇円とする更正をし、さらに、昭和五〇年七月三〇日付けで、総所得金額を三七万一〇〇〇円とし、納付すべき税額を三万六九〇〇円とする再更正及び過少申告加算税を一四〇〇円とする賦課決定をした。また、同署長は、原告が昭和四九年分の所得税についてした確定申告に対し、昭和五〇年七月三〇日付けで、総所得金額を一四万二〇〇〇円、納付すべき税額を一万四一〇〇円とする更正をした(以下、右再更正、賦課決定及び更正を合わせて「本件更正等」という。)。

2  原告は、同署長を被告として昭和四八年分の所得税についての再更正及び過少申告加算税賦課決定並びに昭和四九年分の所得税についての更正の各取消し等を求める訴えを当庁に提起(当庁昭和五〇年(行ウ)第一三四号及び昭和五一年行ウ第七九号)したが、いずれも棄却され、その後、原告は、右各判決を不服として控訴(東京高等裁判所昭和五三年(行コ)第八五号及び昭和五四年(行コ)第九号)及び上告(最高裁判所昭和五五年(行ツ)第一六〇号及び第一六一号)をしたが、いずれも棄却され、右各第一審判決が確定した。

3  荻窪税務署長は、昭和四九年五月一〇日、原告の昭和四八年分の所得税の確定申告に基づく同年分の源泉所得税の還付金二二万二〇〇〇円及び還付加算金二三〇〇円の合計二二万四三〇〇円のうち、金七七〇〇円を昭和四八年分の所得税に充当(国税通則法五七条一項)し、残金二一万六六〇〇円を原告に還付した。また、同署長は、昭和五一年三月三一日、原告の昭和四九年分の所得税の確定申告に基づく同年分の源泉所得税の還付金一六万三二〇〇円のうち、金二万九二〇〇円を昭和四八年分の所得税に、金一四〇〇円を同年分の過少申告加算税に、金四四〇〇円を同年分の延滞税に、金一万四一〇〇円を昭和四九年分の所得税に、金一四〇〇円を同年分の延滞税にそれぞれ充当し、残金一一万二七〇〇円を原告に還付した。

二  原告の主張

原告の主位的請求は、本件更正等が無効であることを主張して、右各充当に係る還付金等の支払を求めるものであり、予備的請求は、右同様の主張により、右各充当(ただし、昭和四八年分については、還付金二二万二〇〇〇円の充当、以下、これらを「本件各充当」という。)の無効確認を求めるものである。

第三当裁判所の判断

一  主位的請求について

本件更正等については、前記第二の一の2記載の確定判決により、その適法であることは既に確定しているところ、抗告訴訟において被告となる行政庁は、当該権利義務の帰属主体たる国又は地方公共団体のために訴訟を追行するものであるから、その判決の既判力は、当該国又は地方公共団体にも及ぶこととなると考えられるところであり、右確定判決の既判力は、被告にも及ぶこととなる。したがって、本件においても、本件更正等は適法であって、延滞税も別紙の計算の額のとおりとなり、本件各充当により原告の主張する還付金請求権は消滅していることとなるから、原告の請求は理由がなく、いずれも棄却されるべきこととなる。

二  予備的請求について

国税通則法五七条の充当は、その要件、効果等にかんがみれば、両当事者間において弁済期の到来した債権が相対立している場合の清算方法である民法上の相殺とその本質を同じくするものであり、同条の要件が客観的に具備されていることによってその効果が生ずる課税庁の内部的事務処理行為にすぎないものとして、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法三条二項)に該当するものとはいえないと解すべきである。確かに、充当は、課税庁の側のみに認められた、納税者の意思のいかんにかかわらず一方的に行われれる行為ではあるが、相手方の意思いかんにかかわらず行われる点については民法上の相殺と何ら異なるところはないし、課税庁の側のみに認められているという点についても、納付手続及び還付手続の簡略化の観点から、政策的、技術的配慮に基づいて、課税庁の側のみにかような相殺禁止(国税通則法一二二条)の例外を認めたからにすぎないものと考えられるから、これらのことによって、充当の本質を民法上の相殺と別異に解すべきことにはならないものというべきである。

なお、仮に充当を行政処分と解するとしても、本件各充当は荻窪税務署長が行ったものであるから、被告国は、行政事件訴訟法九条にいう「処分をした行政庁」ではなく、被告適格を有しないことは明らかである。

したがって、いずれにしても本件各充当の無効の確認を求める右予備的請求はいずれも不適法なものとして却下されることとなる。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 原啓一郎 裁判官 近田正晴)

別紙

延滞税の計算と根拠規定

1 延滞税の計算に必要な日

(1) 昭和48年分

法定申告期限日(国税通則法(以下「法」という。)2条7号) 昭和49年3月15日

法定申告期限日から1年を経過した日 昭和50年3月15日

再更正の通知を発した日 昭和50年7月30日

納期限日(法2条8項) 昭和50年8月30日

納期限日から2箇月を経過した日 昭和50年10月30日

納付日(充当日) 昭和51年3月31日

(2) 昭和49年分

法定申告期限日(法2条7号) 昭和50年3月15日

再更正の通知を発した日 昭和50年7月30日

納期限日(法2条8項) 昭和50年8月30日

納期限日から2箇月を経過した日 昭和50年10月30日

納付日(充当日) 昭和51年3月31日

(法定納付期限日から1年を経過した日 昭和51年3月31日)

2 延滞税の計算(法60条)

(1) 昭和48年分

〈1〉 基礎となる金額 29,000円 (法118条1000円未満切捨て)

〈2〉 年7.3%の割合の延滞税がかかる日数

ア 「法定申告期限日の翌日」から「法定申告期限日から1年を経過した日」までの日数 365日

イ 「更正通知書を発した日の翌日」から「納期限日から2月を経過した日」までの日数 92日

〈3〉 年14.6%の割合の延滞税のかかる日数

「納期限日から2月を経過する日の翌日」から「納付日」までの日数 152日

注 「法定申告期限日から1年を経過した日の翌日」から「更正通知書を発した日」までは日数計算の際除外する。(法61条1項2号)

〈4〉 計算

29,000円×(365日+92日)×年利7.3%+29,000円×152日×年利14.5%≒4400円 (法119条100円未満切捨て)

(2) 昭和49年分

〈1〉 基礎となる金額 14,000円 (法118条1000円未満切捨て)

〈2〉 年7.3%の割合の延滞税がかかる日数

「法定申告期限日の翌日」から「法定申告期限日から1年を経過した日」までの日数 229日

〈3〉 年14.6%の割合の延滞税のかかる日数

「納期限日から2月を経過する日の翌日」から「納付日」までの日数 152日

注 「法定申告期限日から1年を経過する日の翌日」から「更正通知書を発した日」までは日数計算の際除外する。(法61条1項2号)

〈4〉 計算

14,000円×229日×年利7.3%+14,000円×152日×年利14.6%≒1400円(法119条100円未満切捨て)

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